掃除が秘めている不思議な力、鍵山秀三郎(日本を美しくする会相談役)
掃除は意義や価値の低い作業であり、他に取り柄のない人がやるものだという認識が根強くあります。
しかし、私は掃除が秘めている並々ならぬ不思議な力を発見し、今日まで欠かさず実践を続けてきました。
私にとって掃除は、人生のすべてと言っても過言ではありません。
私に掃除の尊さを教えてくれたのは両親でした。
私が幼い頃、一家は東京で裕福な暮らしをしていましたが、戦争で岐阜の山奥へ疎開してからは、貧しい生活を余儀なくされることとなりました。
しかし、そうした中でも両親は決して掃除を欠かすことがなく、そのおかげで私は、貧しさの中でも決して惨めな思いをすることがなかったのです。
後年、私が勤めていた会社の厚遇を擲(なげう)って、ローヤルを創業したのは、志が低く、粗野な業界を変えたいという思いからでした。
自転車一台の行商を始めた当初は、元同僚や部下であった人たちから散々揶揄され、家族にも随分心配をかけましたが、この業界を変えるんだという私の信念は、揺らぐことはありませんでした。
そしてその信念は、よいと信じたことを貫き通した両親から受け継いだものに他なりません。
創業時の当社にとり雲の上の存在だった同業者の中で、現在も経営が存続しているところは、数少なくなりました。
かつて勢いのあった会社が長続きしなかった半面、掃除に学ぶ会が二十五年(掲載当時)も継続し、なおも発展を続けていることを鑑みるに、物事に携わる人の思いや姿勢の大切さをつくづく実感させられます。
ゆえに私は、これからも掃除の実践を通じて、人の心の荒みを少しでも和らげていくとともに、世のため、人のためという善意の輪を広げてまいりたいと願っているのです。
「功の成るは成るの日に成るに非ず」。
人が成功するのは、ある日突然成功するわけではない。すべて、平素の努力の集積によって成功する。そんな意味です。